農業経営を法人化するメリットが分からないという方もいるかと思いますが、経営を今よりも発展させたい、円滑に継承したいと思う方には、法人化は必ず必要です。
「経理をきちんと行いたい」方は...
法人化することで、家計と経営を分離し、お金の流れを明確にすることができます!
経営を発展させるためには、きちんと財務管理を行い、収入や支出、資産、負債等の状況を正確に把握しておくが重要です。これで初めてどこを改善すれば、経営が発展するか分かるようになります。また、このことが経営と家計の両方を守ることにつながります。
「人材を雇用したい」方は...
法人化することで、従業員が安心して働ける職場にすることができます!
優秀な人材に来てもらい、長く働いてもらうためには、安心して働ける環境が不可欠です。本陣になると、就業規則を定め、社会保険や労働保険の加入による負担も発生しますが、これらが従業員の安心につながります。
「販売を拡大したい方」は...
法人化することで、取引先に対する信用力を高めることができます!
販売を拡大する上で、取引先の信用は欠かせないものです。法人になると、財務諸表の整備などを行わなければならなくなりますが、こうした財務管理をきちんと行える経営であれば、販売先や金融機関も安心して取引を行えるようになります。
「円滑な経営承継を行いたい」方は...
法人化することで、経営や農地、技術を次世代に残すことができます!
個人の経営では、農地や農業用施設に係る相続税の負担が発生したり、利用権の再設定等が必要となる場合があります。法人になると、経営資源の分散を抑制できるほか、従業員の中から後継者を選ぶことも可能になります。
「農業所得が400万円を超えている」方は...
法人化することで、節税することができます!
個人の経営では、農業所得に所得税が課されますが、所得税は累進課税であるため、所得が大きくなるほど税率も高くなります。法人化すると、所得を給与として分配することにより給与所得控除が認められ、所得400万円以上の場合には、所得税より法人税の方が納税額が低くなるので、節税することができます(下記の試算を参照)。
また、法人になることで、経営が赤字になった場合に欠損金を最大9年間繰越控除できるなどの税制優遇措置もありますが、従業員を雇用している場合には、各種社会保険料の事業主負担が発生する場合はあります。
農事組合法人 | 合同会社 | 株式会社(非公開会社)※ | ||
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根拠法 | 農業協同組合法人 | 会社法 | ||
事業 | ① 農業に係る共同利用施設の設置・農作業の共同化に関する事業 ② 農業経営 ③ 付帯事業 |
事業一般 | ||
構成員 | 資格 | ① 農民 ② 農協・農協連合会 ③ 現物出資する農地保有合理化法人 ④ 物資供給・役務提供を受ける個人 ⑤ 新技術の提供に係る契約等を締結する者 |
制限なし(農業生産法人の場合は、農地法により、常時従事者、農地提供者等に制限) | |
数 | 3人以上 | 1人以上(制限なし) | ||
構成員である 従事者への分配 |
①給与(確定給与) ②従事分量配当 のいずれかを年度ごとに選択可 |
給与のみ | ||
意思決定 | 一人一票制による総会の議決 | 一人一票制による多数決 | 一株一票制による株式総会の議決 | |
役員の人数 | ①理事1人以上(必置・組合員のみ ②監事(任意・組合員外も可) |
業務執行社員 (原則、社員が業務執行) |
①取締役1人以上(必置・株主外も可) ② 監査役(任意・株主外も可) |
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役員の任期 | 3年以内 | 制限なし | 原則:取締役2年・監査役4年、10年まで延長可(特例有限会社は制限なし) | |
雇用労働力 | 組合員(同一世帯の家族を含む)外の常時従事者が常時従事者総数の2/3以下 | 制限なし | ||
資本金 | 制限なし | 制限なし | ||
決算公告義務 | なし | なし | 義務あり (特例有限会社はなし) |
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法人税 | 税率 | ①構成員に給与を支給しない法人 (協同組合等に該当) 年所得800万円以下→15% 年所得800万円超 →19% ②上記以外(普通法人に該当) 株式会社と同じ |
資本金1億円超の法人 23.4% 資本金1億円以下の法人 年所得800万円以下 15% 年所得800万円超 23.4% |
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その他 | 同族会社の留保金課税の適用なし(会社でないため) | 同族会社の留保金課税の適用あり(平成19年度税制改正で中小企業を対象から除外) | ||
事業税 | 農業生産法人が行う事業(畜産業、原則として農作業受託(注)を除く)は非課税、協同組合等に該当の場合は軽減税率、それ以外は右記に同じ 注.一定の場合は非課税 |
資本金1億円超の法人 外形標準課税 資本金1億円以下の法人 年所得400万円以下 2.7% 年所得400万円超800万円以下 4.0% 年所得800万円超 5.3% +地方法人税特別 事業税×81%(外形標準課税所得割148%) |
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設立時の登録免許税 定款認証手数料 |
非課税 非課税 |
資本金の7/1,000(最低15万円) 5万円 |
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組織変更 | 株式会社に変更可 合同会社への直接変更は不可 |
株式会社に変更可 農事組合法人への変更は不可 |
合同会社に変更可 農事組合法人への変更は不可 |
青年就農給付金(準備金)の給付
県農業大学校等の農業経営者育成教育機関、先進農家・先進農業法人で研修を受ける場合、原則として45歳未満で就農する者に対し、研修期間中について年間150万円を最長2年間もらえます。
青年就農給付金(経営開始型)の給付
農業経営者となることについて強い意欲を有しており、原則45歳未満の独立・自営就農者について、年間最大150万円を最長5年間もらえます。
経営体育成支援事業
人・農地プランに位置付けられた中心経営体等(新規就農者含む。)が融資を受け、農業用機械・施設等を導入する際、融資残について補助金を交付します。上限は事業費の3/10とします。
※たとえば 経営規模を拡大するためにトラクター(1,000万円)を購入
農業法人等が就農希望者を新たに雇用し、就農に必要な技術・設営ノウハウ等を習得させるために実践的な研修等を実施する場合、研修に要する経費が一部助成されます。最長2年間または年間最大120万円までもらえます。
労働契約
使用者は、労働者に対して重要な労働条件を書面で示して、労働契約を結ぶ必要があります。
安全衛生教育
農業には、農業機械や農薬を利用するなど、危険を伴う作業があります。
労働者を雇い入れた場合や作業内容を変更した場合、使用者はその業務に関する安全または衛生のための教育を行わなければなりません。
就業規則の作成
就業規則は、労働条件の他、職場内の規則等について、労務者の意見を聞いた上で使用者が作成するルールブックです。
労働者が常時10人以上いる職場は作成が義務付けられていますが、職場の秩序を持ち、労働条件と経営の安定を図るとともに無用なトラブルを防ぐためにも、労働者の人数が10人未満であっても作成することが望まれます。
労働保険の加入
労働保険は労災保険と雇用保険からなりたっています。
労働者が業務上負傷等をした場合は、使用者は療養に必要な費用を補償する義務がありますが、労働保険に加入して補償を受けられる場合は、使用者は補償する必要はありません。
雇用保険は、労働者が失業した場合等に給付が受けられます。
労災保険 | 雇用保険 | |||
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事業形態 | ・個人事業所 (労働者常時5人未満) |
・法人事業所 ・個人事業所 (労働者常時5人以上) |
・個人事業所 (労働者常時5人未満) |
・法人事業所 ・個人事業所 (労働者常時5人以上) |
摘要 | 任意加入(※1) | 強制加入 | 任意加入 | 強制加入 |
保険料の負担 | 事業主 | 事業主と労働者の双方で負担 |
※1 一定の危険又は有害な作業を主として行う事業であって常時労働者を使用するもの及び事業主が特別加入(※2)している事業は強制加入。
※2 特別加入とは、労働者ではないが、労働者に準じて保護することが適当であると認められる一定の者(中小事業主等)に対して労災保険への加入を認める制度。
社会保険の加入
社会保険に医療保険と年金保険からなりたっています。
医療保険 | 年金保険 | |||
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保険の種類 | 国民健康保険 | 健康保険 | 国民年金 | 厚生年金保険 |
摘要 | ・個人事業所 | ・法人事業所 ・個人事業所※ |
・個人事業所 | ・法人事業所 ・個人事業所※ |
保険料の負担 | 労働者の自己負担 | 事業主と労働者の双方で負担 | 労働者の自己負担 | 事業主と労働者の双方で負担 |
※事業所で使用される者の2分の1以上の同意及び構成労働大臣の認可があれば適用
アルバイトなど短期間労働者の保険加入
アルバイト、パートなどの呼称にかかわりなく、以下の加入要件を満たす場合は保険に加入する必要があります。
保険の種類 | 加入要件 |
労災保険 | 労働時間にかかわりなく加入 |
雇用保険 | 週の所定労働時間が20時間以上で、かつ、31日以上雇用の見込みがある場合は加入 |
健康保険 | ①1日又は1週間の所定労働時間及び②1ヶ月の所定労働日数が、その事業所で同種の業務に従事する一般の労働者の3/4以上ある場合は加入 |
厚生年金保険 | ①1日又は1週間の所定労働時間及び②1ヶ月の所定労働日数が、その事業所で同種の業務に従事する一般の労働者の3/4以上ある場合は加入 |